3月28日より熊本市でも5-11歳の小児に対する新型コロナワクチンの接種が開始されます。保護者の皆様の中には接種すべきか否かお悩みの方も多いと思います。判断の一助となればと考え、当院の接種に対する考えを述べます。
厚生労働省、日本小児科学会ともに5-11歳の小児に対する新型コロナワクチンの接種は意義があるとしていますが、メリットとデメリットを十分に考えての接種を勧めています。わかりにくい言い方ですが、高齢者のように、感染すると重症化率と死亡率が高い年齢層にはワクチンは推奨となりますが、重症化率、死亡率が低い小児に対しては推奨とまでは言えず、より控えめな表現の“意義がある”としています。また、現在流行中のオミクロン株に対する有効率も明らかではないため努力義務にもなっていません。更には、接種に伴う局所反応や発熱などの全身反応は成人に比し高率であると報告されています。しかし一方で、オミクロン株の流行に伴い新規感染者が増加する中で小児の割合が増えており、稀ではありますが基礎疾患のなかった小児でも死亡例があったこと、基礎疾患のある小児では新型コロナウイルスに感染することで重症化するリスクが高まると考えられていること。
また、今後オミクロン株より更に感染性と病原性が高まった株が流行する可能性もあり、全く免疫のない状態では小児といっても重症化の危険性が高まる可能性もあること、さらには罹患した後の後遺症の問題などを考慮すると、健康な小児に対する接種も考慮すべきと考えられます。現状は健康な小児に対して、強く接種を勧めることも、接種をしないことを勧めることもできないというのが正直なところです。
ワクチン接種のメリットが大きいと考えられる場合は
① 基礎疾患(神経疾患、脳性麻痺、慢性肺疾患、慢性心疾患、ダウン症候群のような染色体異常、悪性腫瘍や臓器移植後の免疫不全状態、高度肥満など)のある小児
② 高齢者と同居している場合
③ 両親の職業が医療、介護、学校、幼稚園・保育園、警察、消防救急などのイッセンシャルワーカーの場合
④ クラブ活動に参加しており、密になることが多い場合
⑤ 感染した場合、本人及び保護者も7-10日間以上の自宅待機を強いられることが社会生活上大きな困難を伴う場合等が挙げられます。
メリットとデメリットを熟慮の上、各家庭で接種するかどうかをお考えください。
厚生労働省のホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_for_children.html
日本小児科学会のホームページ
https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=374
もご覧ください。
国外では、神経疾患、慢性呼吸器疾患および免疫不全症を有する子どもの新型コロナウイルス感染例において、COVID-19の重症化が報告されています。国内においても接種対象年齢となる基礎疾患のある子どもの重症化が危惧されますので、ワクチン接種がそれを防ぐことが期待されます。
しかし、高齢者と比べて思春期の子ども達、若年成人では接種部位の疼痛出現頻度は約90%と高く、接種後、特に2回目接種後に発熱、全身倦怠感、頭痛等の全身反応が起こる頻度も高いことが示されています(例:37.5℃以上の発熱は20代で約50%、50代で約30%、70代で約10%)。以上のことから、ワクチン接種を検討する際には本人および養育者に十分な接種前の説明と接種後の健康観察が必要であると考えます。
基礎疾患を有する子どもへのワクチン接種については、本人の健康状況をよく把握している主治医と養育者との間で、接種後の体調管理等を事前に相談することが望ましいと考えます。
2)健康な子どもへの接種
12歳以上の健康な子どもへのワクチン接種は意義があると考えています。COVID-19予防対策の影響で子どもたちの生活は様々な制限を受け、子どもたちの心身の健康に大きな影響を与え続けています。小児COVID-19患者の多くは軽症ですが、まれながら重症化することがありますし、同居する高齢者の方がいる場合には感染を広げる可能性もあります。なお、子どもがワクチン接種をした場合、その後のマスク着用などの感染予防策の解除については、今後の流行状況などを踏まえて慎重に考える必要があります。
子どもへのワクチン接種は、先行する成人への接種状況を踏まえて慎重に実施されることが望ましく、また、接種にあたってはメリットとデメリットを本人と養育者が十分に理解していること、接種前・中・後におけるきめ細かな対応を行うことが前提であり、できれば個別接種が望ましいと考えます。やむを得ず集団接種を実施する際には、本人と養育者に対する個別の説明をしっかり行う配慮が望まれます。ワクチン接種を希望しない子どもと養育者に対しては、特別扱いされないような十分な配慮が必要と考えます。
小児COVID-19が比較的軽症である一方で、国外での小児を対象とした接種経験等では、ワクチン接種後の発熱や接種部位の疼痛等の副反応出現頻度が比較的高いことが報告されています。十分な接種前の説明がないまま副反応が発生することがないようにすることが重要です。
最近イスラエルや米国などから、若年男性におけるワクチン接種後の心筋炎の発症が報告されています。国内では2021年10月15日までの解析で、COVID-19罹患による心筋炎・心膜炎発症に比べ、頻度は低いものの、10代、20代の男性の2回目接種後4日程度の間に心筋炎・心膜炎を発症する事例が多い傾向があり、武田/モデルナ社のワクチンより、ファイザー社のワクチンの方が、心筋炎・心膜炎が疑われた報告の頻度が低い傾向があると報告されました。ワクチンとの因果関係やその臨床像・重症度について、学会として今後も情報を収集し発出していきます。当委員会では、小児のCOVID-19に関する論文を抄訳して学会ホームページ上で発表しています。今後も新たな情報をもとに更新していきます。