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乳児期の鉄欠乏症で脳の発育が障害される可能性

“鉄が不足すると貧血になる”というのは事実ですが、鉄が欠乏することによる症状は貧血だけではありません。特に生後6-7か月の時期は、貧血になりやすく、別名離乳期貧血とも呼ばれる貧血の好発時期です。特に母乳栄養児で多く見られ、母乳中の鉄含有量が少ないことが原因とされています。鉄欠乏の症状は、貧血だけでなく、脳の発達が障害される可能性を示唆する証拠が次々と蓄積されつつあります。鉄欠乏で貧血が起きるのは、鉄欠乏の最終段階であるため、血液検査で貧血がわかった時には、すでに発育途上にある脳では、かなり深刻な鉄欠乏状態にあると考えられます。
鉄欠乏の脳に対する影響は、動物実験では記憶に関係する海馬や運動調節に関わる線条体に構造変化が起こり、細胞レベルではオリゴデンドロサイトという神経線維の髄鞘化を促進する細胞に悪影響を与え、その結果、言語発達、発語の遅れ、知能低下、注意・運動・認知・行動面の機能低下、睡眠覚醒リズムの乱れに関係するとされています。しかもこれらの障害の一部は、鉄補充を行っても改善しない可能性が指摘されています。つまり、運動機能障害は鉄補充により改善しますが、行動異常は成人期まで持続する場合があると言われており、鉄欠乏症が起こる前に予防することが必要と考えられます。
しかし、現状では乳児期に対する貧血や鉄欠乏症診断のための検査は行われていません。
米国小児科学会では、母乳栄養単独の場合、鉄欠乏症予防のため生後4か月から1日1mg/kgの鉄剤を補充することを推奨していますが、わが国では検査の機会さえないのが現状です。私のクリニックでは7か月検診の際に、希望者の方に貧血検査を行っていますが、母乳栄養単独(+離乳食1-2回)の7か月児の約1/3に鉄欠乏性貧血が認められます。その場合、すぐに鉄剤投与を開始していますが、神経後遺症を予防するという意味ではより早期の鉄剤投与が必要と考えられます。日本小児科学会においても、米国小児科学会のような勧告を出してほしいものです。